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安楽死制度の法制化を目指して

 「死にたい」そう思った事のある人は少なくないのではないでしょうか。
 警視庁のデータによれば、2020年の日本の自殺者数は21,081人(男性14,055人、女性7,026人)です。1998年から2011年にかけての年間自殺者数3万人超に比べればだいぶ減ってはいるものの、これらは明確に自殺と判断されるものに限られており、死因がはっきりしない、いわゆる変死や行方不明者を含めれば、いまだに年間3万人以上が自殺している可能性は否定出来ません。
 また、2016年に行われた日本財団の調査によれば、過去1年以内の自殺未遂経験者数は推計で53万5千人(男性26万4千人、女性27万1千人)であり、非常に多くの人々が自殺願望を持っている事がわかります。実際に自殺した方、自殺未遂をした方だけでなく、恒常的に「死にたい」と思いながら生活している方の数はもっと多い事でしょう。

 警視庁のデータによれば、2016年の自殺者数は、21,897人(男性15,121人、女性6,776人)です。この数字に自殺未遂経験数を加えた上で計算すると、自殺既遂率は4%にも満たない事がわかります。何故こんなにも既遂率が低いのでしょうか?
 もちろん自殺未遂をした方の中には、本気で死のうとは考えていなかったという方もいる事でしょう。
 しかし、それ以上に多いのは、「直前で思いとどまった方」ではないかと思います。自ら死ぬ、という行為はそれ程恐ろしいものなのです。それは、今まで何度かの自殺未遂を繰り返した私が断言します。よく、「死ぬ勇気があれば何でも出来る」と言う方がいますが、それは安易な発言です。死ぬために必要なものは「勇気」などではなく、「狂気」だからです。理性を保った状態ではそうそう簡単に自殺は出来ません。私自身、実際に首を吊る事が出来たのは今まで激しい頭痛に苛まれその苦痛から逃れようとして理性を失っていた際の一度だけです(ロープが外れて結局は生きながらえてしまいましたが)。

 苦しむ事無く、眠るように死にたい。誰にも迷惑をかける事無く死にたい。そう願う方は多いはずです。当ホームページは、そうした方々の望む、いわゆる「安楽死」の法制化を目指して活動していきたいと思います。

安楽死を法制化しない事は立法の不作為です

 2010年に朝日新聞が行った世論調査では、「自身が治る見込みのない末期がんなどの病気になり苦痛に耐えられなくなった場合に安楽死が選べるとしたら」という質問に対する結果が、選びたい(70%)、選びたくない(22%)、その他(8%)でした。
 また同様に、「安楽死を法律で認める事に賛成ですか?」という質問に対する結果は、賛成(74%)、反対(18%)、その他(8%)でした。
 このように、日本でも安楽死の法制化に対する賛成派は、反対派よりもはるかに多いのです。それにもかかわらず、政府は安楽死の法制化を行おうとしません。これは明らかな政治家の怠慢、立法の不作為と言えるでしょう。
 2012年には、超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」が具体的な法案を公表しましたが、障害者団体の代表などの呼びかけで設立された「尊厳死の法制化を認めない市民の会」は、「患者本人に対して、治療を停止する圧力になりかねない」と反対しています。※安楽死と尊厳死は明確には異なるものですが、ここではひとまず同じものとして捉えていただければ幸いです。

安楽死と尊厳死の違い

 安楽死には大きく分けて二つの定義が存在します。
・積極的安楽死-対象を投薬などの行為によって安楽死させる事。一般的に安楽死と聞いてイメージされるのはこの行為を指すと思います。
・消極的安楽死-対象への延命治療行為を中断し、亡くなるに任せる事。医学が発達した現代では寝たきりの患者や意識のない患者でも治療器具に繋いだり投薬を続ける事によって寿命を引き延ばす事が可能ですが、そういった行為を中断し、患者が自然に天寿をまっとうするに任せる行為です。学説は多々ありますが、一般的にはこちらが尊厳死と同義と捉えられています。

安楽死の法制化によって考えられるメリット、デメリット

・メリット
 1 生きている事が辛くなっても安楽死が出来るという安心感から、物事を前向きに考える事が出来るようになる。
 2 安楽死申請時に理由の聞き取りをする事で、自殺しなくても済む命を救える可能性がある。
 3 人身事故等を減らす事が出来る。遺族に損害賠償請求が行くような自殺方法を取る必要が無くなる。
 4 死刑になりたいと言って殺人を犯す人間を減らす事が出来る。殺人犯の考えは理解しがたいため完全にとはいかないかもしれませんが、少なくとも「死にたいけれど自殺する事が出来ない」という人間の犯罪は減らす事が出来るでしょう。
 5 安楽死を望むのは無職・ニートなどの非生産層が多いと思われるため社会の生産性が上がる。
 6 超高齢者や終末期患者の安楽死によって医療費や年金が減る。
 7 安楽死による自殺者を減らすため、政治家達がより良い政策を模索する可能性が見込める。
・デメリット
 1 安楽死審査や実行を行うため、新たに人員や手間などが必要になる。
 2 安楽死法案の制定の他にも、新たな法案の制定や罰則の強化などが必要になる。

安楽死制度を法制化している国

 ※個人で調べ得た限りの情報の為、誤りがあってもご容赦ください。

アメリカ(一部の州)
オーストラリア
オランダ 世界で初めて安楽死を法制化した国。精神疾患を理由とする安楽死、12歳以上の子供の安楽死にも対応
カナダ 精神疾患にも対応
スイス 一部団体では自国民以外にも対応
スペイン
ニュージーランド
ベルギー 年齢制限なし、成人であれば精神的苦痛を理由とする安楽死にも対応していると思われる
ルクセンブルク
 どの国であっても特別な記載のあるものを除き、基本的には同様の条件があるとお考え下さい。主には、①18歳以上である事、②自国民である事、③重大かつ不治の病状がある等、患者の苦痛が耐えがたいものである事、④安楽死を選択する上で正常な判断力を有している事、⑤複数の医師の診断がある事、などです。

安楽死の法制化を進めない事に関する違憲性

 前述の通り、国民の大半は安楽死の法制化に賛成しています。それにもかかわらず日本で安楽死の法制化がなされないのは、政府が民意を反映しようとしていないという事であり、民主主義国家の根幹を揺るがす問題と言っても過言ではありません。
 日本国憲法第十三条には、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」との定めがあり、国民には自己決定権があるものとされています。それは、自らの生死についても同様であるはずです。
 理由は様々あるはずです。しかしながら、日々「死にたい」「早く死にたい」と願いながら抜け殻のような人生を送る事にどんな意味があるのでしょうか。安楽死を法制化しない事は、そうした方々の権利を尊重していないと言える事でしょう。「命を大切にしましょう」などのありきたりな励ましの言葉よりも、安楽死を望んでいる方は大勢います。
 そもそも何故自殺してはならないのでしょう。自殺は神に与えられた命を捨てる行為であり大罪だからでしょうか。確かに自殺を罪とする宗教は多数存在します。カトリックは積極的安楽死に反対姿勢を示していますし、ユダヤ教でも自殺は命を与えてくださった神への反逆行為と見なされ厳しく禁じられています。イスラム教でも自殺はコーランで厳しく禁止されています。仏教でも自殺は愚かな行為とみなされているようです。しかしながら、日本国憲法第二十条には「信教の自由」があり、自殺が罪であるかどうかは本人次第のはずのため、安楽死制度に反対する理由として「自殺が罪である」事を挙げるのはそれこそ完全な違憲と言える事でしょう。
 その人が幸福かどうか、それはその人自身にしかわからない事です。他人から見れば何でもないように見えても、実際には耐えがたい苦痛を抱えているかもしれません。逆に、普通の人ならとても耐えられないような状況に置かれていても平気で生きている人もいるかもしれません。
 生きるか死ぬか、それはその人のみが決める物であって、他人には「生きろ」とも「死ね」とも言う権利はどこにもありません。生きる事は「権利」であるべきで、「義務」であってはならないのです。ただ、その生きる権利を放棄したいと考えた時に、誰にも迷惑をかけずに苦しまずに死ねる手段を国が準備していないのは、国民の幸福追求権をないがしろにしていると言えるでしょう。

安楽死の要件

 日本で安楽死を法制化する際、どのような条件を不随させるべきでしょうか。以下に素案としてご提案したい内容を記載します。
 1 日本国籍を有する事
 2 義務教育を修了済みである事※ただし18歳未満(未成年)の場合は親権者の同意を必要とする事
 3 安楽死の申請時に所定の審査員による理由の聞き取りを行い、安楽死以外の手段により解決が出来る内容である場合はその解決手段を模索するよう努める事
 4 重大な身体的苦痛がある場合だけでなく、重病や老化、障害などにより生活の質(QOL)が低下した場合をはじめとし、精神的苦痛や、自らの厭世観により生きる事を望まない場合でも認める事
 5 正常な判断力を有し安楽死制度を理解した上で、自らの意思によるものと判断出来る事※「私が病気や事故などにより脳死状態等治療不可かつ自らの意思表示が不可能になった状態や、身体的に重大な苦痛を感じていると思われながら意思表示が不可能な状態になった場合には延命治療をせず安楽死させてください」「私が認知症になり正常な自己判断能力を失った場合には安楽死させてください」等、事前に公正証書による意思表示があった場合を含む
 6 2名以上の医師による安楽死を認める診断を必要とする事
 7 意思表示が不可能な場合及び、正常な判断能力を失った場合を除き、1ヶ月を待機する事※本当に安楽死して構わないのか、意思確定のための期間とする。期間中の安楽死取り消しはいつでも可能とし、再度安楽死を希望する場合には再び1ヶ月の待機期間を必要とする事
 8 安楽死は原則として所定の病院にて資格を持つ医師による薬物注射で行われる事
 9 借金がある者、犯罪の容疑がある者、執行猶予中の者、仮釈放中の者、服役中の者の利用を認めない事
 上記の他に、安楽死を教唆する行為、同調圧力をかける行為を厳しく取り締まる法案を制定しこれを実行する事が必要になるでしょう。※取り締まりの対象例「障害者や高齢者は年金の無駄だから早く安楽死してくれよ」「なんで皆安楽死してるのにお前も安楽死しないんだよ」等の発言をする事。直接の場合だけでなく、インターネット上など匿名の空間における発言でも厳しく取り締まらなければなりません。

法制化に向けてどのような取り組みをしていくべきか

 安楽死の法制化を目指すには、どのような活動をしていく必要があるでしょうか。
 基本的には、安楽死する権利を求める訴訟を起こす事によって国が安楽死を認めない事の違憲性を問い、安楽死制度を法制化しようとしない立法の不作為を追求する事により、安楽死法案の制定を促す事がスタートとなります。
 2019年2月14日、日本各地の同性カップル13組が、結婚する権利を求めて一斉に国を提訴しました。
 日本の同性カップル13組、結婚の自由求め各地で一斉提訴 禁止の違憲性問う
 同ページには、
 >日本は主要7カ国(G7)の中で唯一同性婚を認めていない国だが、複数の調査結果によると国民の間では強く支持する声が多い。
 という記述があります。他の複数の国では認められていて、国民の間でも賛成の声が多いにもかかわらず法律で認められていない…安楽死制度と共通するものがありますね。
 この訴訟は2年以上の歳月を経て2021年3月17日、判決の時を迎えました。
 同性婚を認めないのは「違憲」 札幌地裁が初の判断
 原告らの国に対する損害賠償請求は棄却され、裁判としては敗訴した事になりますが、「同性婚を認めないのは違憲である」という判断は、実質的な勝訴と言っても過言ではありません。
 現行法が違憲状態であると判断されれば、政治家達にはそれを改める必要が出てきます。これが非常に重要な点なのです。日本の政治家は基本的に保守的な人間が多く、新しい事を始める事に弱腰です。新しい事を始めて今いる支持者を失ったり、マスメディアのやり玉に挙げられたりする事を恐れているのです。しかし、違憲判決が出れば、政治家達には「違憲状態だから改める」という、活動のための大義名分が出来るのです。実際、この判決がきっかけとなったかのように、2021年は同性婚や夫婦別姓、LGBT問題に関する議論が非常に活発となりました。10月に行われた第49回衆議院議員総選挙でも、多くの政党がこれらの問題の解決を政策に盛り込んでいました。

 このように、まずは安楽死の法制化を求める方を多数集め、一斉に国を提訴します。それだけでマスメディアの注目を集める事が出来、安楽死に関する議論が活発化します。過去の調査では安楽死に賛成の意見が多かったですし、議論が活発化すれば、より多数派の意見が浸透していく事でしょう。
 「優生思想や障害者差別につながる」「患者への圧力となる」そんな反発意見もある事でしょう。ですが、こうした意見については、「何故安楽死の法制化が優生思想や障害者差別につながるのでしょう?障害者だから安楽死しなければならないのですか?それは貴方自身が障害者は安楽死させるべき存在だと差別している事の証明ではないのでしょうか」「患者に対し圧力をかける行為は法律で禁止します。むしろ苦痛を抱えた患者が安らかな死を迎えられる選択肢を作る事に反対する貴方こそ、患者に対して嫌でも生きろ、と圧力をかけているのではないのですか」と論破出来ます。
 裁判には時間がかかる事でしょう。ですが、安楽死を認めない事に対して違憲判決を勝ち取る事が出来れば、政治家達もそれを無視し続ける事は出来なくなります。権利は主張しなければ得られません。
 本気で安楽死を法制化させたいという方は、euthanasia@heartunion.netまでご連絡ください。

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